深い理由



【存在】

炎天下

無人の運動場

風の音

揺れる緑の木々

遠くから聞こえる吹奏楽の音

時は止まり  思考も停止する

                                 2018年  夏




ー断片ー

小学生の時  タバコを吸って
担任の福田先生に叱られた

中学1年生の時の担任だった中野先生は勉強を全くしない私に卒業後  魚屋になることを母に勧めた
母はそのことを嘆いた

中学生の時 いつも学校へ行く時
家にむかえにきてくれていた男前のみつる君はやくざになった
そして死んだ





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ー私の感受性がみずみずしかった時ー


私の感受性がみずみずしかった時
多くの詩や小説を読んだ

私の感性がみずみずしかった時
「死者の奢り」や「セブンティーン」に衝撃を受けた

私の感受性がみずみずしかった時
詩を読んではとめどなく涙が溢れた

私の感性がみずみずしかった時
トゲトゲしていた

私の感受性がみずみずしかった時
人の感性を訝しかった

私の感受性がみずみずしかった時
色んなことに不満を持ち絶えずイライラしていた

私の感受性がみずみずしかった時
ジャズをよく聴いた

私の感受性がみずみずしかった時
想像の世界で生きていた

私の感受性がみずみずしかった時

私の感受性がみずみずしかった時

私が20歳になった時
私の中でなにかが死んだ





ー忘れ物ー

僕はあの教室に大切なものを忘れてきてしまった
忘れものを取りに教室の扉を開けた時
もう決してとりにかえれない忘れものだったことに気がつき

僕はとても悲しくなってしまった












ー小心者ー

寒いところが嫌いだ
暖かいところが好きだ
南の島に住みたいと憧れている

でも、わかっている
南の島に住んでも安住の地ではないことを


小心者には安住の地などないのだろう








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ー平凡ー

平凡です

平凡すぎて
あくびが出る
息づくこともなく
戦うわけでもなく
命をかけて生きたこともなく

履歴書には
戦えない奴
戦わない奴
逃げた訳では無いが守り続けた奴
と書いてあります

この履歴書をどこに出せばいいのですか
この履歴書を誰に渡せばいいのですか

季節はすでに秋
かなたから
かすかにten  count が聞こえてくる

もう  眠り続けてもいいのかも






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ー単純ー

昔  パリで
綺麗なマドモアゼルが車に乗るのを見た
その車の助手席に汚れたホイールが置いてあった
車も汚れていた

車は単なる移動手段
この人達は車を洗う時間があれば
音楽を聴いたり
美術館で絵画をみたり
映画をみたりするのだろう

そう思った
その日から
僕の車は汚くなった





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【ノート】

感情のない世界に生きてこれたならどんなに良かったか

私の人生ノートは純白の1ページですんでいたはずだ

悲しみの海で溺れ  もがき苦しむことも

行くあてもなく  街をさまようことも

おさまりきらない気持ちで  眠れぬ夜を過ごすことも

あなたの微笑みに  一喜一憂することもなかった

私のノートは

少しの喜びと

たくさんの苦しみと

恥ずかしい思いと後悔に満ち溢れている

感情のない世界に生きてこれたなら

どんなによかった





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【時代】

僕たちの生きた時代
アンニュイな音楽と共に反骨の嵐が吹き荒れ
生も死も意識せず  未開の時や大地を夢見た

僕たちの見た空は青空でも夕焼けの空でもなかった
僕たちの見た海はオーシャンブルーの海でも漆黒の海でもなかった

僕たちはどこに向かって旅をしてきたのだろう
僕たちの後ろにはどんな歴史が刻まれてきたのだろうか


きっと僕たちは歳をとりすぎたのだろう
長い長い旅に出ることはもう出来ない


きっと僕たちは優しくなりすぎたのだろう
後ろを振り返らずに通り過ぎることはもう出来ない


きっと僕たちは考え過ぎるようになったのだろう
何も考えずに一歩を踏み出すことはもう出来ない


やがて  重い時が流れ
朽ち果てる精神  記憶の底に忘れ去られていく

全て何も無かったかのように








【1+1】

1+1は2ではない

もし1+1の解が全て2ならば
遠くの海辺まで出かけ
綺麗な夕日を見ることもないだろう

もし1+1の解が全て2ならば
ショパンを聴いて
心洗われることもないだろう

もし1+1の解が全て2ならば
遠くの国に出かけ
心躍らせることもないだろう


もし1+1の解が全て2ならば

わたしは1でしかない









 《包丁》

包丁を研いだ
ただひたすら包丁を研いだ
スパスパものが切れる
こんなに気持ちのいいことはない

また研いで  スパスパ切る
ひかるは刃先に目を凝らし一心に研ぐ
そして  スパスパ切る
そして再び研ぐ

しだいに  

自分の研いでいるものが
本当に包丁なのか
何なのかわからなっていく











【風の記憶】

風は頬をなぜ通り過ぎて行った
風は街をさまよい港へ
そしてその風は海を渡り
遠くの街へ

風は知っている
私と私たちの生きた街のことを
彼等たちの門出とその想いを

そして  今日も
何も無かったかのように
新しい風が頬をなぜ通り過ぎて行く










【運動場にて】

夕暮れ時  走り疲れてマットの上に倒れ込む

上空を飛ぶあの飛行機の向かうのは

秋冷えのするパリの街か

波乗り達が集うノースショアか

最南の街プンタアレナスか

想いは世界を巡る

目を閉じれば瞼の裏に残る夕焼けの仄かな色


                                          2018年10月









【日々】

人間はバカな生き物だ
バカをしては  失敗し
何もしないで  後悔ばかりし
そして年老い死んでいく

カーラジオでアレサ・フランクリンが
I  have a dream  I have a dream
と歌っている・・・・・・










【世界】

ニューヨークの仙人が言った
死ぬ理由は何ひとつないが
それ以上に生きる理由が見つからないんだよ
目のない男がつぶやいた
仙人はやることが無いだけさ


ロンドンの牧師が言った
神は神であることに飽きたみたいだ
口の無い男は思った
牧師は最初から神など信じていないのさ


北京の皇帝が言った
権力があるのは楽しい  でも幸せじゃない
耳の無い男は考えた
戻れない道もあるもんだ


ナイロビの シャーマンが言った
それらしい理由を考えるのも大変なんだと
髪のない女は願った
嘘をつき続けてくれと











【多数者の正義】

目が見えない人が言った「わたしは幸せ」

目の見える人が呟いた「可哀想に」

通行人は思った 「マジョリティの共同幻想だな」

そして
みんな共同幻想の中に生きていると





【夕焼け】

夕焼けは美しい

心奪われるほど美しい

でも

黙って目をつぶる

弱さを隠すために










【木彫】

木彫を始めた


初めての作品ができた

お世辞にも上手な出来といえないが

自分では満足している

木彫は

メメント・モリ











【 あなたのせいです】

楽しくて
楽しくて


嬉しくて
嬉しくて


悲しくて
悲しくて


切なくて
切なくて


苦しくて
苦しくて


みんなあなたのせいです











【深い理由 】

チリのサンチャゴに行きたいと思っている

昔 「サンチャゴに雨が降る」という
映画があった
別にその映画を見たわけではないが [サンチャゴに雨が降る]というフレーズが心に引っかかった

その時からサンチャゴに行きたいと  思うようになった

物事には
そんなに深い理由があるわけじゃない


3日前
街で必死の形相で走る老婆を見た

2日前
夕日の中  黙ってうつむいて歩く紳士を見た

昨日
夜の街で薄笑いを浮かべてたたずむ子供を見た


別に物事には
そんなに深い理由があるわけじゃない








【 私の欲しかったものは】

私の欲しかったものは
しなやかな身体

私の欲しかったものは
強靭な意志

私の欲しかったものは
波の音が聞こえる貝殻

私の欲しかったものは
こぼれ落ちるほどの満天の星が見える別荘

私の欲しかったものは
死をも恐れぬ勇敢さ

私の欲しかったものは
海に沈む綺麗な夕日が見える住みか

私の欲しかったものは
音楽の才能

私の欲しかったものがあれば
私は幸せになれると信じていた

でも
幸せはそんなところには落ちてなかった












《百面相》

あなたの怪訝そうな顔

あなたの怒った顔

あなたの戸惑った顔

あなたの困った顔

あなたの嬉しそうな顔

あなたの悲しそうな顔

あなたの楽しそうな顔

あなたの不機嫌そうな顔

あなたの寝不足の顔

あなたの考える顔

あなたの生き生きとした顔

あなたがどんな気持ちでいるのか全部わかります

あなたのことだけをじっと見てきたから

あなたの百面相全部分かります

次に私と会う時にはどんな顔をしているのかな

私はあなたのいたずらっぽい顔が一番のお気に入り

いつもいい顔ばっかりしてられないのもわかっています

でも本当は知っています百面相の下に
とても悲しいあなたがいることを











《 なくなる 》

昔あんなにお金持ちになりたいと思っていたのに

なくなる
欲がなくなる


上空を飛ぶ飛行機を見てはあんなにも外国に行きたいと思っていたのに

なくなる
気持ちがなくなる


スポーツカーに乗ってどこまでも続く道をぶっ飛ばしたいと思っていたのに

なくなる
衝動がなくなる


綺麗な夕日の見える大きなバルコニーのついた家にあんなに住みたいと思っていたのに

なくなる
夢がなくなる


たくさんの知識を身につけようと
毎日あんなにも本を読んでいたのに

なくなる
意欲がなくななる


あんなにもいつか職人になりたいと思っていたのに

なくなる
希望がなくなる


あんなにも日々を充実して過ごしたいと思っていたのに

なくなる
糧がなくなる


なくなる
居場所がなくなる


あらゆることから
意味がなくなる


なくなる
なくなる

すべてが
なくなる











【命】

ガンで余命半年と言われた男がいた
男は実家の山を桜で埋め尽くし  綺麗にして死のうと桜を植え続けた


命を削りながら山へ登った男がいた
男は指を9本失いながらも山に登り続けた
世界一の山に8度も挑戦し そして死んだ

ところであなたは命を削り 
何をしてきたのですか
あなたは命を削り 
何をしているのですか










【夢うつつ】

秋の午後とつぜん物語が始まり

冬が過ぎ

春になり物語は終わった。





chochoino_choi

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